□はじめに
□ラインハルトとヤン・ウェンリー お互いの名前を知る事となる戦場
□映画の骨格を成す「ボレロ」
□深みのある描写と、音楽の演出
□まとめ
わが征くは星の大海 の考察 (TA-KA)
□ はじめに
【ネタバレを含みます】
こんにちは。コラムを投稿させて頂きますTA-KAです。よろしくお願いします。
さて、今回は1988年に公開された、銀河英雄伝説 「わが征くは星の大海」をご紹介しながら考察していきたいと思います。
32年前と言えば、かなり古い作品のように感じられるかもしれませんが、新作の” Die Neue These”とベースがほぼ同じである事を考えれば、この作品を観る事で” Die Neue These”を新たな視点で観る事が出来ると思うと、少し興味が湧いてきませんか。
そうなんです! この作品は” Die Neue These”を更に面白く観る為に、是非とも観て頂きたい作品なのです。
□ラインハルトとヤン・ウェンリー お互いの名前を知る事となる戦場
「わが征くは星の大海」の舞台は、” Die Neue These” 第一期「邂逅」の1話、アスターテ会戦の約半年前である、惑星レグニッツァ上空戦と、第4次ティアマト会戦を描いた作品で、ラインハルトとヤン・ウェンリーはまだお互いの存在をあまり知る事は無く、ヤンが「白い戦艦の大将」と言う程度の認識しかありませんでした。
そんな二人が、イゼルローン回廊宙域でその戦火を交える事となります。
この戦闘における、二人の置かれた状況ですが、互いに上官からの理解を得られず、どちらかと言うとあまり良いとは言えず、その上官の判断により、その身を危険に晒される状況に置かれてしまいます。
ラインハルトはイゼルローン要塞総司令官であるミュッケンベルガー元帥に疎まれ、2度の戦闘も最前線へ立たされる事となり、捨て駒的な扱いを受け、
また同じくヤン・ウェンリーも艦隊指揮官であるパエッタ中将の下で作戦参謀として働き、帝国軍との戦闘で危機を察知するヤンの進言は、全く聞き入れられず、戦況は悪化するばかりで、その才能を活かす事はありませんでした。
そんな二人が、互いの軍の窮地を、それぞれの個性とやり方で打破してゆき、その戦闘の危機から艦隊を救う事となり、その戦闘後に生涯のライバルとなる互いの名前を知る事となります。
□映画の骨格を成す「ボレロ」
銀河英雄伝説と言えば、人々が織りなす深い世界観と、知略を駆使した壮大な艦隊戦、それらを演出するクラシック音楽が交じり合い、大人が楽しめる作品であり、
この「わが征くは星の大海」は映画という事からも、60分という短い時間の中でそのエッセンスが凝縮され、非常に見応えがある映画でもあります。
「わが征くは星の大海」は、多くのレビューの中でこの映画を代表する楽曲として、ある音楽が紹介されるのですが、
それはバレエ音楽として有名な「ボレロ」であり、ティアマト会戦いおける15分間の演出で使用され、その壮大な戦闘シーンは見応えがあり、この映画を代表する音楽と言っても良い素晴らしい調和を演出しています。
しかし、この「ボレロ」はその、ティアマト会戦のシーンのみで使用されている訳ではなく、この映画の骨格を形成している重要な要素だと考えられます
「ボレロ」の特徴は同一のリズムを繰り返しながら、最初は小さなフルートの演奏から始まり、徐々に様々な楽器が登場し、その音色は重厚かつ豊かに変化してゆき、爆発的な熱量を持った演奏へと拡大、そしてその15分にも及ぶ演奏のクライマックスは、それらが一気に崩れ落ち全てが静寂に包まれると言った楽曲で、「静」から「動」への変容を、一定のリズムで繰り返す、独特の演出がこの「ボレロ」の特徴であります。
この、「静」から「動」への変容と、「一定のリズム」は、この映画「わが征くは星の大海」のストーリー全体に流れる構成と同じで、
最初は静かに美しい演出で始まり、整然と艦隊が隊列を成し、その整えられた隊列は戦闘時における艦隊運動でも乱れる事は無く、徐々にストーリーを深めながら熱量を蓄え、ティアマト会戦でその熱量は高まり、同盟軍の圧倒的な大敗でそのクライマックスを迎えると、ヤンが最後に静寂を創り出す。
そんな「ボレロ」の構成を全体に組み込んだ映画であるかと考えられます。
この映画ではそんな「ボレロ」を骨格にした様々な工夫と演出が成されており、「ボレロ」を片隅に感じながら映画を観てゆくと、この映画の壮大さが感じられ、銀河英雄伝説の世界観を深く味わう事ができるかと思います。
オープニングでは、ラインハルトが乗艦する白く輝くブリュンヒルトが静かにゆっくりと登場するのですが、ショパンの「ノクターン」で登場するその演出は、静寂からフルートの演出が始まる「ボレロ」のそれであり、
初戦の惑星レグニッツァ上空戦までの間に、ラインハルトとヤン、二人の置かれた境遇が淡々と演出され、互いの意図とは反し、その戦場へと向かわざる得ない状況が、ゆっくりと熱量を帯び始めてゆきます。
惑星レグニッツァ上空戦では、ニールセンの交響曲第4番「不滅」が使用され、一気に熱量が上がりますが、それは激しい物では無く、緩やかでありながら緊迫した楽曲が流れ、
戦闘でもそれは同じで、目の前が厚い雲で覆われる中、索敵レーダーも使用できない状況から、突如雲海の隙に両軍が目の前に現れ、熱量が一気に上がりますが、戦闘は壮大な物では無く、戦艦が撃ち合いながらすれ違うと言った、激しくも静かな物となり、最後はその戦闘で暖められた大気に核融合ミサイル1発を撃ち込み、同盟軍は5分の4を失うと言った大敗となる、「ボレロ」の初段から中段へ移り変わる演奏を感じさせる、静かでありながら、激しい熱量を持った戦闘となります。
また、この映画で欠かせないのが、イゼルローン要塞へ入港する際の「白鳥の湖」です。
ラインハルトが惑星レグニッツァ上空戦で勝利し、イゼルローン要塞へ凱旋をするシーンで使用されるのですが、
ブリュンヒルトが入港許可の後、イゼルローン要塞表面へと高度を落とし、徐々に液体金属へと入ってゆくシーンは、まさに白鳥が舞い、水面へと優雅にその身を落してゆく姿を感じさせ、それに続くラインハルトの艦隊も隊列を乱すことなく整然と入港するシーンも、バレエで白鳥達が整然と舞うシーンと重なり、この映画を代表するシーンを演出し、この華やかな演出が、「ボレロ」の管楽器が協奏し合う軽やかで華やかな中段を感じさせます。
ここから約10分間、入港後の情景と、同盟軍の選択が描かれてゆきます。
ラインハルトとヤンは抗えない運命を担い、またその戦闘に巻き込まれる将兵達が抱える心の揺らぎを様々な場面で表現し、ラインハルトとキルヒアイスも、言葉少ない会話と鋭い眼光の描写で、静かでありながら重く深い演出をし、ティアマト会戦の緊張をより一層高め、中段から後半に向う様々な楽器が協奏し合う「ボレロ」の熱量を感じさせます。
ティアマト会戦では、その「ボレロ」の演奏のみで15分間の戦闘を描き、その「静」から「動」への変化と、一気に静寂に墜ちる演出は圧巻で、ここまで音楽を贅沢に使用した映画は無いと思います。
その最初の、互いの軍がティアマト宙域で対峙をするシーンでは、言葉は無くゆっくりと艦隊と艦橋の映像が映し出されてゆき、そのバックで「ボレロ」が静かに流れ、その物静かさが戦闘前の緊張感を感じさせてゆきます。
その緊張を一気に高めたのが、ミュッケンベルガー元帥が発する「左翼艦隊、前へ」のセリフです。
ラインハルトはその命令を受け、冷静に艦隊を前線へ進め、そのラインハルトの冷淡さと、静かに奏でられる「ボレロ」が合わさり、その緊張感が増してゆき、ロイエンタール、ミッターマイヤーの動揺がそれに拍車をかけ、それでもなお冷静にその窮地を脱する策を講じながら、メックリンガーとゆっくりと会話をするシーンが、その緊張に重みを持たせてゆきます。
「ボレロ」が静かに奏でられてゆき、ラインハルトの不敵な前進行動が、同盟軍のオペレーター達を慌ただしくさせ、ヤンがラインハルトの行動を推測をするシーンから、ロボス元帥が「照準、敵先行艦隊」と命令し、ミュッケンベルガー元帥が「敵艦隊が射程距離に入り次第、攻撃を開始せよ」「前方左翼艦隊は考慮に入れずともよい」との命令が下り、不安は増加してゆきます。
そしてアッテンボローが「全滅は確実ですね」と言葉をヤンに話し掛けると、ヤンは「だがアイツは前進をやめない、何を考えているんだ…」と答え、そのシーンを過ぎると、整然と前進するブリュンヒルトの映像に切り替わります。
そのシーンでは「ボレロ」にトランペットの演奏が加わり、その緊張感と不安感が一段と高い物となってゆきます。
そのトランペットが加わった「ボレロ」が奏でられる映像がしばらく続き、様々な情景と人々の表情をゆっくりと切り替えながら、緊張と不安をより一層高めて行き、
オペレーターの「敵艦、射程距離に入ります」の合図と共に、ミュッケンベルガー元帥が砲撃の用意を命令、その期を待っていたラインハルトは、すぐさま艦隊を右に進路転換させ、状況が一変します。
気が付くと演奏にもサクソフォーンが加わり、その情景は徐々に厚みが増し、
ラインハルトの艦隊は整然と両軍の前線を横切って行きますが、両軍の本隊は混乱し、気が付くと本隊の射程は敵軍を捉える位置に接近、一気に本体同士の開戦となってゆきます。
そこから、両軍の壮大な艦隊戦が繰り広げられ、「ボレロ」もその戦闘に呼応するように熱量を増し、ティアマト会戦における様々な状況と表情を映しだしながらクライマックスへと向かってゆきます。
クライマックスを迎えようとするその時、ラインハルトの艦隊が帝国軍を救うために側面から参戦し、その状況を打破しようと自由惑星同盟軍艦隊は起死回生の策として陽動作戦を決行しますが、それを見抜かれた自由惑星同盟艦隊は、帝国軍に包囲され壊滅に追い込まれてゆき、帝国軍の勝利を確信した提督達の表情が「ボレロ」の演奏と共に流れ、ロボス元帥がその身を落とすと、「ボレロ」は最高潮を迎え、自由惑星同盟の艦隊がティアマト宙域で消え去ろうとしたまさにその時、
ヤンが乗るユリシーズが、ラインハルトが乗艦するブリュンヒルトの真下に付き、「ボレロ」はクライマックスから、一気に静寂へと落ちてゆきます。
その静寂は、その激しかった戦闘を一気に止める程のパワーを持ち、ブリュンヒルトに乗艦するラインハルトの存在の大きさを物語っています。
その静寂に、自らが置かれた状況を良しとしないラインハルトが攻撃命令を出すのですが、「ボレロ」の静寂をも自らのストーリーに加えない、ラインハルトが至高の存在である事を物語っている事も、銀河英雄伝説らしい所で、少し関心しまう程に良い場面です。
□まとめ
銀河英雄伝説 「わが征くは星の大海」は、そのストーリーの構成に「ボレロ」を活用し、様々な状況と人々が徐々に合わさり、「静」から「動」へとその緊張感を高め、それを一気に落とす、なんと大胆な映画なのかと感じさせる、素晴らしい作品です。
もし、ご覧になられていない方がいましたら、是非とも観て頂きたいと思います。
今回も、最後までお読み頂きありがとうございました。
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