高支持率!2016年公開の異色SF『メッセージ』のネタバレ徹底解説!タイムパラドックスの矛盾ある?
宇宙人の目的は?3000年後って何?なぜ結婚や離婚わかってて選んだ?原作と違う?
おかしい?つまらない?わからない点や評価も含めて徹底考察します!
いざ、SFの世界へ…!
メッセージ(Arrival)のネタバレ感想・考察・徹底解説 (Ryo)
本日は2016年公開のSF映画『メッセ―ジ(Arrival)』について、ネタバレ徹底考察コラム!
少し難しいとも言われていますが、全体的にかなり高評価の映画ですね!
なんとRotten Tomatoでは驚異の支持率94%を保持!
SF的に矛盾はあるの?タイムパラドックスは?
言語によって運命は変わる?物理法則も変わる?
宇宙人ヘプタポッドの目的は?3000年後に何が起きる?
ばかうけ映画って何!?
今回は、ちょっと分かりづらい箇所なども、
19(+2)項目でわかりやすく徹底解説していきます!!
どうぞじっくりお読みください!!
- 超斬新!言語学の視点から描く「宇宙人SF」映画
- アクション無し!徹底的に描く哲学要素
- 言語により思考は変わるのか?
- 言語によって物理法則も変わるのか?
- インターステラーの「四次元」から考えてみる
- 見えているものだけがこの世界なのか?
- 観客も騙された!しかし、未来見えちゃうと矛盾あるのでは?
- タイムパラドックスは起きているのか?
- その指摘自体が、因果論という世界に基づいている
- 始点も終点もない。そこに「存在」している世界。
- 自由意志によって、未来は変えられないのか?
- ルイーズは、なぜわかっていて結婚を選んだのか?
- ヘプタポッドの世界は、ノンゼロサムゲーム!
- ヘプタポッドの目的は何だったのか?
- ヘプタポッドの国旗がある?「ハンナ」の意味は?
- 数か月間の苦闘の末に完成!美しすぎるヘプタポッド語!
- タコ型宇宙人ヘプタポッドの演出も良い!
- ばかうけそっくり!?完璧にシンプルな宇宙船『ザ・シェル』
- やっぱハードSFも良い!実際、これは起きるのか?!
超斬新!言語学の視点から描く「宇宙人SF」映画
さて、本作、原作はテッド・チャンの短編小説『あなたの人生の物語』です。
題名が全然SFっぽくないですが、実はこの映画、あらすじだけ見ると、いかにも宇宙人VS地球人の大戦争始まるのか!?みたいな感じではありますが、主なスポットライトはそこではなく、「言語からみる宇宙人とのファーストコンタクト」「物理法則は決まっているのか?」「運命とは?」みたいなところなんですよね。
こちらの原作に基づきエリック・ハイセラーが脚本を執筆し、ドゥニ・ヴィルヌーヴが監督を務めています。原作よりは映画向け・一般大衆の娯楽向け要素が強くなっているようですが、全然ハードSFの領域で楽しめる映画となっています。
脚本のエリック・ハイセラーは、『遊星からの物体X ファーストコンタクト』やNetflix限定の斬新なSF映画として有名な『バード・ボックス』などがあり、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、『ボーダーライン』や『ブレードランナー 2049』で知られています。そして、なにより今年10月公開予定の『DUNE/デューン 砂の惑星』も、彼が監督なので、かなり注目を集めているSF監督ですね!!
キャスト陣は、出演はエイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカーなど。
あらすじは以下の通り。
出典:シネマトゥデイ
これだと読むと、エメリッヒの『インデペンデンス・デイ』やスピルバーグでいえば『宇宙戦争』のような、宇宙人と地球人の戦いを描くプロット、にも見えますが、本作は趣向が少し変わっています。
『メッセージ』では、突如現れた宇宙人を「言語学」的な観点から描いていくのです。
アクション無し!徹底的に描く哲学要素
宇宙人たちはほぼ攻撃してこないですし、この映画自体アクションシーンもほぼ無しで、穏やかな映画です。
どちらかといえば『未知との遭遇』や『惑星ソラリス』のような感じでしょうか。
俗にいう宇宙人とのファーストコンタクトものですね。
それにしても、言語の視点からこんな映画よく作ったなと感激しましたよね!
ここまで丁寧に緻密に宇宙人とのコミュニケーションに焦点をあてた映画が、いまだかつてあっただろうか、と言いたくなるほどの衝撃が当初ありました。
※初代ウルトラマンで登場するピグモンの声を、一生懸命解読するエピソードがありましたが、、、(違うかw
そして、この映画は、「言語」を主軸として、「思考回路」や「物理法則」も変わるというトンデモワールドに発展していきます。
しかしですよ、一見オカルトチックな展開に思えますが、僕は結構リアリティあると思って観ました。
主人公ルイーズは、ヘプタポッドの言語を調べようとコミュニケーションを続けているうちに、彼らの言語の世界に入っていきます。
そうしてルイーズに変化がもたらされたものをまずは解説していきましょう。
この映画では様々な哲学的なメッセージが絶えず問われています。
ということで、今回は以下の順番で徹底的に紐解いていきます。
①言語により思考も変わるのか?
②言語により物理法則も変わるのか?
③タイムパラドックスはあるのか?
④自由意志によって未来変えられないのか?
また、先にこの映画世界における結論・定義をいかにまとめます。
結論①:地球人にとっての宇宙は「因果論」であるが、ヘプタポッドにとっての宇宙は「運命論」である
結論②:ルイーズは「物事を順番関係なく観ることができる」だけであり、「異なる世界に行って未来を変える」能力を持っているわけではない。
結論③:この世界の自由意志は、すべてノンゼロサムゲームによって決められている
言語により思考は変わるのか?
第1に、言語により人は思考様式が変わるのではないか、ということ。
言語的相対論とも呼ばれ、サピア=ウォーフ仮説として、作中でも引用されていますが、現実の世界でも真剣に研究されている分野になります。
これは、「思考する際に言語が使われるなら、思考はその言語の影響を受ける」という考え方です。
例えば、アメリカ人は英語を使って育つ一方、日本人は日本語を使って育ちます。
同じ人間ではあるが、使う言語によって、思考(人格)も影響を受けているのでないかというのです。
しっかり学問としても研究されているんですよね。
身近なところでいえば、日本語って結構曖昧にしても伝えられる言語として知られていますよね。それって、日本の国民性ともリンクしているように思えますが、これは因果関係があるのではないかということです。鶏と卵みたいな話かもしれませんが、言語が「曖昧でも良い」から、国民性や文化も「曖昧」になったのでは、ということです。
ルイーズも、未知なる宇宙人が使う言語に関わっているうち、思考が変わってきます。
例えば、「時間」への価値観です。
時間は流れるもののにように解釈されますが、
ヘプタポッドたちには流れるという認識がないのです。
それは、まるで僕たち地球人が、空間を左から右に眺めることができるのと同じように、ヘプタポッドも時間を左から右まで眺めることができるのです。
普通ならば、「は!?!?そんなわけないだろ!」と頑なに否定したくなりますが、ルイーズは柔軟な思考を持つようになり、それを受け入れ始めるのです。
文字にも時間の概念があるので、左から右(あるいは逆)に流れます。
直線的=リニアと表現できます。
しかし、ヘプタポッドの”表義”文字(表音でも表意でもない)は円形であり、非線形言語=ノンリニア。これは、つまり、「過去・現在・未来」という流れがないからなのです。
「地球」という単語を例にすると、以下のように例えることができます。
・地球人の場合:「ちきゅう」を読むとき、始まりの「ち」と終わりの「う」の間には時間が流れています。これはつまり、時間軸が直線方向に流れている物理法則の世界では、言語も直線的になることを意味します。
・ヘプタポッドの場合:「🌎(表義文字)」のみ。円形のものなので、そこには、直線的に流れる時間という認識はないのです。時間が流れることはない、一発で伝わる絵文字がイメージとしてわかりやすいと思います。
他の軍関係者やCIA、世界各国の専門家たちがそれを受け入れらずに煮詰まっていたところ、一歩踏み出して「彼らには時間が流れる感覚がない」ことに肯定できたのは、単にルイーズが言語学者的にすごかったのではなく、異なる言語文化に触れていくうちに思考が変わったと捉えることができるはずです。
言語によって物理法則も変わるのか?
第2に、ルイーズにもたらされた変化として、大事な要素があります。
ここから少し難しくなるのですが、
厳密にいうと「もう一つ」というより互いに相関関係にある要素になります。
それは、使う言語によって、「物理法則」をも変わってしまうのではないか?という視点です。これは科学的な視点から論争が巻き起こるトピックではありますが、大前提彼らは「宇宙のどこか」から来たもの。そもそも、宇宙はまだまだダークエネルギーやダークマターのことで謎多き世界であり、今我々が把握している物理法則がすべてではないことを前提にする必要があります。マクロな物理法則と相性が悪い量子論の謎も然りです。
現時点の我々が知る限りでは、この宇宙には「因果律」があるとされていますが、今回登場するエイリアンたちは異なる世界観を生きています。
この映画では、まずここの前提を「当たり前」にして腑に落とす必要があります。
結論①:地球人にとっての宇宙は「因果論」であるが、ヘプタポッドにとっての宇宙は「運命論」である
「リンゴが木から落ちる」を例にすると、以下のように区別できるはずです。
地球人の場合:
「あ、リンゴが木から落ちるぞー」→「ほら、地面に落ちたよ」
というように、「はじまり」があり、「終わり」が存在する因果論の世界です。
始点があり、終点がある世界。”逐次発展的”とも呼ばれます。
ヘプタポッドの場合:
「今からリンゴが木から落ちるよ。既に地面に落ちてる」
というように、「はじまり」と「終わり」がない、運命論・目的論的な世界です。
ちょっとこれだけ観ても、地球上ではあり得ないことなので「?」ですよねw
しかし、これ、『インターステラー』で描かれた四次元世界のことを考えると、実は少し分かりやすかったりします。
◆ハードSFの神映画!あの映画が伝えたいことは何だったのか?!考察コラムへ!
インターステラーの「四次元」から考えてみる
四次元の世界に行けば、時間という軸が増えます。
三次元の世界では、縦・横・高さの軸がありますよね。
これに「時間」軸が加わったものが四次元です。
しかし、地球上は三次元(にみえる)世界なので、「そんな、時間軸が加わったってどういう意味だよ!?」ってなりますが、映画『インターステラー』のラストに描かれていたように、時間が目の前で流れるようになるのです。
立場を置き換えて考えると分かりやすいです。
まずは「点」を意識してください。
「・」で良いですw
この点君からすると、この宇宙は、左右にも上下にもいけない世界です。
肩身が狭いですね~。これが0次元。
次に「線」です。
「ー」でOKですw
この線君からすると、この宇宙は、左右の横にしかいけない世界です。
自由がない世界ですね~。これが一次元。
次に二次元になると、
「ー」君は縦方向も横方向にも伸びることできます。平面世界ですね。
三次元では、これに奥行きが加わりますよね。
立体ボックスをイメージしてください。
さて、このボックス君からすると、この宇宙は、横にも縦にも奥にも進むことができますが、線君には、この理論は謎です。なぜなら彼らが定義する宇宙は、平面世界であり、縦と横しか存在しないものしか「観測」できないし、「奥行き」なんて世界は謎すぎるからですね。
三次元のボックス君が「おーい、この宇宙には奥行きがあるんだぞー」と言ってきても、なんのことかさっぱり。彼らの知覚では、三次元の存在を理解することは苦しく、理論上の世界として考えるしかありません。
さて、こう視点を切り替えていくと、分かりやすいですよね。
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四次元世界では、縦、横、奥行きに重ねて、時間軸も加わっています。
三次元で生きる僕らが、二次元の線君をバカにしていたように、
四次元で生きる宇宙人には、僕らのことがバカにおもえるでしょう。
まるで僕らが二次元人に「奥行きも自由に行き来できるぞー」というように、
四次元の宇宙人は僕らに「おい、時間も自由に行き来できるぞー」と思っているのです。
そこで、彼らが「こんな世界あるんだぞ」と伝えるために使った手段は何でしょうか?
むしろ、どう伝えれば、この理屈を理解してもらえるでしょうか?
それが、言語なのです。
ヘプタポッドは、言語を「武器」と表現しています。
まさにその通りですよね。言語を持たなければ、時間の流れがない世界があることをどうやっても理解することはできないでしょう。それはサピア=ウォーフ仮説とも相関してくるのです。
逆に、言語がある地球人には、まだ武器があるのです。
作中では、ヘプタポッドが「四次元」に生きるとまで明言されることはありませんが、時間軸も自由に観れることができるのは、三次元以上の世界を見ることができる生命体だということなので、実質「四次元」空間の生命体だと思ってよいはずです。
面白いですよね!
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見えているものだけがこの世界なのか?
ここまで考えると、そんなに突拍子の無いトンデモワールドでもないように思えてきませんか。
言ってしまえば、ただ単に我々地球人は「見えてない」=観測できない世界なだけ。
本当に四次元が存在するのかどうかなんて、三次元しか観ることができない地球人にはわかりっこないです。ということは、映画のような世界があったところで、実は何の不思議でもない。そう思えませんか?
この「見える」「見えない」というのは、SF界隈や物理学の世界では、かなり大事なキーワードですよね。観測効果とか呼んだりしますが、結局我々人間が知る物理法則ってすべて人間が「観測」できる範囲の世界のことといってしまえば、それまでなんです。
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観測上は絶対的な物理法則も、我々が観測できない範囲では、知らない物理法則がある。
そう言われても、僕は「なるほど」と思えてきます。
再三になりますが、
この世界の違いを伝えた手段が「言語」であり、
そして、その「言語」によって、ルイーズ一人だけが異なる物理法則を手に入れる。
この筋書きは、正直神がかっています!
言語によって思考が変わる
↓↑
思考によって言語が変わる
↓
過去・現在・未来の流れが見える思考になる
普通に描いたら絶対に適当な設定になってしまうようなところを、
なんだかかなりリアルに物理法則の改変を行っているんです。
もう天才とかいいようがない。
観客も騙された!しかし、未来見えちゃうと矛盾あるのでは?
さて、しかし、いくら時間軸が加わったところで、未来が見えちゃうのおかしんじゃない!?的なツッコミもあるとおもうので、次はそこを解説していきます。
ここは、結論、変わったのは「思考」のみであることがポイントになるかなと思います。
まず、この映画の一番の魅力は、実は二段階構想になっていること。
・第1段階:ルイーズが「過去や未来が見える」状態であることに気づきビックリ!
・第2段階:観客が「あれ、ルイーズの過去かと思ったら未来だったのか」に気付きビックリ!
これは、記憶操作や仮想現実系の映画ではよく取られる手法です。
名前出すとネタバレになっちゃうので伏せますが、「なんだ、観客の俺たちも騙されていたのか!」的な展開は、古くからSFには存在しており、タイムループものやSFサスペンスとしても発展しています。
今回は、終始宇宙人の謎を探るストーリーでした。まさか、そんな二段階構えで来ているなんてさらさら思っていなかったので、かなり不意打ちのエンディングでしたねw
最初から描かれている「少女との記憶」は、一見ルイーズの過去へのフラッシュバックにみえるわけです。これがまたうまいんですが、ルイーズがなぜか過去に娘がいた母親のように見えるんですよw
それは、悲しそうにしていたり、作中いかにも以前は娘がいたような寂しそうな家を映したりと、演出上からも騙そうとするところが垣間見えますねwいやぁ、感服!!
娘をなくした母親が、亡くなった娘に会うために、過去を観ようとするハードSF?的な展開、映画『コンタクト』的なストーリープロットかとおもったら全然違うわけですよ。
これは、してやられたって感じで、非常にうまいトリックです。
過去の思い出がフラッシュバックしていたのではなく、
未来の思い出がフラッシュフォワードしていた、ということですね。
タイムパラドックスは起きているのか?
フラッシュバックやフラッシュフォワードしていくのですが、
終盤で、タイムパラドックスが起きているとよくいわれています。
で、これは、原作にはなく、少し戦闘勃発寸前という緊迫シーンを追加したい商業映画的な理由もあったにせよ、紐解けるものではあると思うんです。
というのも、大事な定義がここでもう一つ。
結論②:ルイーズは「物事を順番関係なく観ることができる」だけであり、「異なる世界に行って未来を変える」能力を持っているわけではない。
ルイーズは、直線的に流れる時間の流れという縛りから「解放」されただけであり、時間を飛び越えて未来を変える能力は持っていません。
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今までずっと川に流されていたところ、川のほとりに流れ着いて、「おー、この流れの中にいたのかー」ってなっているような状態ですね。
決して、流れを止めたり、変えることはできない。
ここで、この定義から派生する問題を二つに分離します。
①この世界では時間軸ひとつじゃないじゃないの?
②ルイーズの自由意志によって未来は変わらないの?
さて、①について、考えられるタイムパラドックスが少なくとも2つありますよね。
それについて考えてみます。
①中国のシャン将軍を説得したタイムパラドックス
中国軍があわやヘプタポッドに攻撃を開始しようとしたとき。
ルイーズはその時、突如「未来」がみえ、そこではパーティー会場でシャン将軍と逢い、電話番号を教えてもらうのです。ルイーズはその電話番号を「現在」の世界でかけ、シャン将軍のヘプタポッドへの攻撃を止める説得をするというお話。
しかし、そもそも、「現在」の世界で電話番号を知ったのに、「未来」のルイーズが電話番号を知らないのは何故って話になってしまいます。
これでは「電話したことがない過去」が存在してしまいます。
これはヘプタポッド的な「時間の流れがない」決定論的な世界ではおかしなことになります。異なる時間軸が二つ存在してしまうからですね。
②ヘプタポッド語の解読をしたタイムパラドックス
ルイーズは、「未来」の自分がヘプタポッド語の教科書を開いていることがみえ、「現在」ですべての言語が読めるようになります。
しかし、そしたら「未来」の世界にあった教科書は誰がつくったの?という疑問が出てきます。これもまた「既に解読できていた過去」が存在してしまいます。
これらは、本当に矛盾しているのでしょうか?
ヘプタポッドの生きる世界と矛盾があるのでしょうか?
ここからは、僕の推察も入りますが、先ほど定義した結論①②を土台にすれば、実は矛盾していないのではないか、と思うのです。
シャン将軍を例に、考えてみます。
そもそも、ルイーズの生きる世界には、「過去」「現在」「未来」が存在しません。
ただの、左右に広がっている時間なのです。
ですので、パーティーでのシャン将軍との会話も、ルイーズにとっては「未来」ではないということなります。
ちょっとわかりづらいですよねw
その指摘自体が、因果論という世界に基づいている
つまり、
・どうして未来でパーティー会場にてシャン将軍に逢ったルイーズは電話番号を知らないの?
→ルイーズは結局、過去で携帯電話番号を知っているじゃん!
この指摘は、因果論に基づいているからこその「矛盾」です。
木からリンゴが落ちる、リンゴが地面に落ちた、という連続する因果論の世界では、正しい矛盾摘発。
直線的に時間が流れているからです。
しかし、ヘプタポッドの世界では、決定論・運命論的な世界。
つまり、既に起きていることがすべて決まっており、直線的というより平面的なイメージ。
ということは、ヘプタポッドの世界に取り込まれたルイーズにも、直線的な時間の流れはありません。つまり、あれは「未来」とは呼べないことになるんです。
言うならば、左から右に線を描く時、始点から終点の間には時間が流れます。
しかし、線を描かずに、最初から線があったらどうでしょう。
始点も終点もないです。
一番左の点も、一番右の点も、決定論的にそこに存在しています。
つまり、「過去にルイーズが電話番号を知った」のに「未来でルイーズは電話番号を知らない」という因果律に基づく論理は通用しません。
通用するのは、「ルイーズが電話番号を知っているのは、ルイーズは流れる時間軸の上に生きていないから」ということになります。
始点も終点もない。そこに「存在」している世界。
解読も同じです。
「未来のルイーズは解読法知っていた」のに「過去でルイーズは解読法を知らない」という因果論は通用しません。
通用するのは、「ルイーズが解読法を知っているのは、ルイーズは流れる時間軸の上に生きていないから」なのです。
結果、携帯電話番号も解読法も、別に未来や過去が変わったのではなく、なるようにしてそのような過去や未来になっているのです。
さっきの線を思い出してください。
始点があるから終点があるという考え方ではないんです。
既にそこに絶対的な”線”が存在しています。
つまり、「電話番号を知るタイミング」と「電話番号をかけるタイミング」はすでにそこに決まって存在しているのです。。!!
分かったようでわからないですよねw
どちらが先か後かって考える時点で、
それは因果論の世界の話なので、土台から変えて考える必要があります。
時間から解放される、というのはそういう意味なのです。
ルイーズのように、言語から思考を変えていかないと、
納得できないのかもしれませんね。
自由意志によって、未来は変えられないのか?
次なる疑問として浮かんでくるのは、「物理法則」と「自由意志」の関係性です。
ルイーズが生きる世界の物理法則は分かった。
しかし、ルイーズという人間の意思によって、
「未来」を変えることだってできちゃうじゃないか、ということです。
例えば、ルイーズは娘と遊んでいる未来を「思い出して」いますが、今この瞬間でルイーズがロープを買って、家で自殺した場合、「未来」が変わってしまいます。これでは、ヘプタポッド的な決定論的世界観が崩れてしまいます。
しかし、この映画では、
この「自由意志」こそが全て決まっているという世界になっています。
つまり、ルイーズは自殺することもできる。
しかし、そうはしないんです。それはルイーズが好んでその道を選んでいるのではなく、既に決まっている未来(というと流れがあるようにきこえるが)に対して動いているだけなのです。
さきほどの「線」に例えると、
ルイーズの生きる世界では始点も終点もない。
なので、ルイーズがどうするかは既に「決定」しているのです。
すでに、一本の線は存在しているのです。
これはある意味では、ルイーズの自由意志ではないともいえます。
しかし、ある意味では、これこそがルイーズの自由意志でもあります。
別にルイーズは「こうしなくちゃいけないのかー」って思って行動しているわけではなく、勝手に定められた未来へ動いているだけなのです。
つまり、自由意志のもの動いているようで、実はそれはまやかしであるということです。
なかなか怖いですね。。。
ルイーズは、なぜわかっていて結婚を選んだのか?
そう考えると、この映画の伝えたいことが分かってきます。
ルイーズは自分で結婚する人生を選択します。
普通、「え、そんな悲しい未来待っていたら結婚しなくてもいいんじゃない!?」ってなりますよね。しかし、そうしないのは、ルイーズ自身が決めています。
ルイーズは、別に「未来が変わっちゃうから」という理由で結婚を決めたわけじゃないですよね。未来を思い出したところで、ルイーズは、別にそれに反抗しようとは思わない。それが、ヘプタポッド的な世界だからです。
なので、ルイーズは「悲しい未来が待っているが、無理やりその道を選んだ」のではなく、「悲しい未来があったなぁ」という感じで行動しているのです。
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「子供のころ公園で遊んだなぁ」と僕たちが思い出すように、
ルイーズにとっては、すでに存在している出来事を思い出しているだけなのです。
ここが、この映画の土台となる法則でもあるので、これもまた腑に落とす必要があります。(先に述べた「結論②」)
ただ、見ている観客からすると、いろいろ考えさせられますよね。
いくら時間の流れから解放されたとはいえ、近い将来に死ぬと分かっている娘や、自分から離れることが分かっている夫(イアン・ドネリー )と一緒に過ごすと決めるのです。
なかなか辛そうじゃないですかw
ちなみに、原作者のテッド・チャンですが、こちらの作品は、奥さんが余命何年かの癌を宣告されたが夫婦で子供をつくるっていうドキュメンタリー映画からヒントを得てつくられているようです。なるほど、死ぬと分かっていても「一緒にいる時間」をつくるのが大事という点に影響を受けていることが分かります。
これをSFと配合するなんて、やはり天才すぎますね!
ヘプタポッドの世界は、ノンゼロサムゲーム!
では、ヘプタポッドの世界でいう自由意志とは何に基づいているのか?
という問いですが、これが、作中でも登場する非ゼロ和ゲーム(ノンゼロサムゲーム)です。
これは、『複数の人々が存在する中誰かが利益を得ても、それにより他の誰かが必ず損失するという結果にはならないこと』という意味になります。ルイーズも言っていますが、ウィンウィンみたいなやつです。
ヘプタポッドはこのノンゼロサムゲームを生きています。
ですので、彼らにとっての意思、ルイーズにとっての意思は、すべてこの宇宙という世界でのノンゼロサムゲームの一部、と考えることができます。
結論③:この世界の自由意志は、すべてノンゼロサムゲームによって決められている
ルイーズが利益を得ようと行動する場合は、すでに、それ自体なにか別の利益になっているということです。それが決まっている世界なのです。
なのでルイーズの自由意志=ウィンウィンになる、という法則が自動的に成り立ちます。
自由に決断しているようで、実はヘプタポッド的な宇宙の物理法則である「ノンゼロサムゲーム」の一部として機能しているわけですね。なかなか深い。
作中でも、これは例がありましたよね。
12か国それぞれにバラバラに送られたヘプタポッドからのメッセージを合わせる必要があった地球人。そこで、ルイーズは合体するよう諸国に呼びかけようとしますが、CIAたちは、世界は警戒態勢であり、アメリカの為に情報提供なんてそんなうまくいかないと反論。
※ちなみに日本も登場しますが、なぜか場所は北海道!『コンタクト』と同じやんw
しかし、ルイーズは提案するのです。
ノンゼロサムゲームである必要があると。
そこで、アメリカから情報を提供することで、ウィンウィンになる関係を作り上げます。
こうして、世界は団結したのです。
ヘプタポッドの目的は何だったのか?
実は原作ではこれは謎のままです。
しかし、映画版では描かれています。
このノンゼロサムゲームが、ヘプタポッドの目的とも関係します。
彼らが来た理由、それは、ヘプタポッドは3000年後の未来(最も、彼らにとっては未来という概念はないかもしれないが)に地球人によって助けられるので、地球人に贈り物をして来た、というのです。
その贈り物=武器=言語だったわけですね。
ルイーズは、言語によって思考が変わり、その思考によって未来が見え、その未来によって、現在を変え、地球人類は一致団結しました。
これこそがヘプタポッドの目的だったのです。
彼らのいう「3000年後」までに地球があるべき姿になる必要がある。
そのためには、地球人類はバラバラではなく一致団結している必要があったんですね。
それは、ただ単に国際的に仲良くしようというレベルではありません。
将来的にヘプタポッド語を地球人全員が学び、それによって全員が思考を変え、未来が見え、来るべき3000年後もヘプタポッドたちを助けられるようになるまで、地球人類たちはノンゼロサムゲームのなかを生きるということなんですね。
ヘプタポッドの国旗がある?「ハンナ」の意味は?
その証拠として、
シャン将軍とパーティーで話している未来には、ヘプタポッドの国旗?のようなものも映っています。これは、近い将来に全人類が統一された一つの言語を使っているという伏線ではないでしょうか。
また、ルイーズが解読の教科書をもって生徒に教えている光景も、将来的に全人類の必須科目かなにかになり、それによって全人類がルイーズのように未来が見えるようになるということではないのでしょうか。
こうして、ヘプタポッドも地球人類も「始まり」や「終わり」がない世界へ突入していくのです。もしかしたら、ヘプタポッドも過去は地球人類のように直線的な時間の流れを生きていて、別の生命体によって言語を学んで未来が見えるようになったのかもしれませんね。妄想が膨らみますね笑
始点も終点もない世界。非線形。全員がノンゼロサムゲームで生きる世界。
これを指し示すものとして、ルイーズの娘であるハンナ(HANNAH)という名前があります。どちらからよんでも、ハンナ。これこそ、「非線形」を表すなによりの証拠でしょう。
数か月間の苦闘の末に完成!美しすぎるヘプタポッド語!
最後に、ヘプタポッド語と彼らの船の美しさについて。
ヘプタポッド語、なかなか斬新でうまいなぁと思いました。
これは、セマグラムとも呼ばれるのですが、制作陣が非常に頑張ってつくったみたいですよ。製作デザイナーのパトリス・バーメットは、数か月間エイリアン文字に向き合い、かなり試行錯誤していたようです。なんにせよ、監督は、世界のどこの言語にも似ていてないものを要求し、最初あった案はすべて没にしたという徹底ぶり。そんななか、バーメットの妻であるマーティーン・バートランドは、15字のデザインを夫に見せ、それがヘプタポッド語のような不思議な円形の文字だったのです。
これにさらに、イカが吐き出す墨から着想を得て、完成。
よく考えたなあと思いますよね。さすが練りに練った挙句のアイデアです。
しかも、この言語、最初に話すのは学者でしたが、持ち帰ってからAI(?)を駆使しして徹底的に調べるところもさすが。跳ね具合や空間も意識して解読していくやり方は、見ているだけで骨が折れる作業ですが近代的なツールを作っているのがリアルでいいですね。これをひとつひとつプログラムに落とし込んで、解析を続ける。。。すごすぎる。。!!!
タコ型宇宙人ヘプタポッドの演出も良い!
かのヘプタポッドくん自身のデザインですが、こちらはよくアメリカ映画でみるタコ型宇宙人という感じ(笑)。なんかタコとかイカってエイリアンに使われますが、よっぽど宇宙人っぽいんですかねw まぁ、これはウェルズの『宇宙戦争』でタコ型宇宙人がイメージとして定着しているのかもしれませんが…。
※『宇宙戦争』の三本足のタコは『トライポッド』。今回の七本足のタコは『ヘプタポッド』。おい、実は兄弟か!?ww
この宇宙人のデザインをしたのは、『プロメテウス』(2012)のカルロス・フアンテ。よくみるタコ型宇宙人と違っていいなと思ったのは、まず足(?)の部分しかほぼみえないこと。なんか唐突に目ん玉二つついているところ見ると人間ぽくて幻滅したりするのですが、今回は霧のようなものに包まれていてよく見えません。演出上その方がミステリアスというのもあるでしょうが、個人的にはこの神秘さが好きです。
ばかうけそっくり!?完璧にシンプルな宇宙船『ザ・シェル』
彼らの乗る宇宙船『ザ・シェル』のデザインがまたいいんですよね。
数学者や物理学者がぜったいに好きそうな「美しさ」を持っています。
※原作では『ルッキンググラス』と呼ばれています
こちらは小惑星「エウノミア」がモチーフらしいです。楕円形の卵のような形に魅了された監督がこちらをモデルにすると決めたようです。重力の向きが変わるシーンなんてもう最高ですよね。音楽がまた特別な味をもって緊迫感を増長させています。あの音楽、そここそトライポッドの鳴き声みたいで怖いすぎる…。
とにかく無駄がないシンプルですっきりな見た目は結構高評価みたいです。
微妙に地上から浮いてるのも、一押しポイント。
重力なんかなくてもいけるんだぜー感を自然に醸し出し、いつでも宇宙へ旅立ってしまうんじゃないかという焦燥感も駆り立てられます。
実はこのフォルム、日本では当初、お菓子「ばかうけ」に似ているとされて、SNSをはじめかなり話題になっていました笑
ばかうけだけに、SNSでもバカ受けしたってことなんですねw
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やっぱハードSFも良い!実際、これは起きるのか?!
さて、今回は徹底解説コラムということで、非常に長くなりましたが、やっぱりたまにこういうハードSF見るのっていいですよね。
宇宙人VS地球人の娯楽映画も好きですが、ハードSFは現実性を追求していて、身近に感じるばかりか、本当にこういうこと起こるんじゃないか?って気持ちにさせてくれます。フィクションの世界から、少しリアルへ引き込んでくれるんですよね。
皆さんは、流れる時間から解放されて、どの時間でも見れるようになれるとしたら、なりたいでしょうか?運命論的にわかっている世界で良いのでしょうか?
そして、実際に、こういう形で宇宙人と接することは今後あるのでしょうか?
もしかすると、すでに誰かがそういったことを経験しているのかもしれません。
ということで、またお会いしましょう!!
▼同じくドュニ監督の最新SF映画『デューン/砂の惑星』のネタバレ考察コラムはこちら!
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